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1-2-2ゾーンプレスとは?
1-2-2ゾーンプレス(フルコートプレス)は、日本ではほとんど使われていないフルコートディフェンスですが、効果的にダブルチームを仕掛けてターンオーバーを誘発できるディフェンスです。
フリースローライン(3/4)からディフェンスをはじめ、ボールマンに常にプレッシャーを与え、サイドラインとセンターラインを活用するのが特徴となります。また、ダブルチームを仕掛けるポイントを、前線からとするのかコフィンコーナーからとするのかによって、ディフェンスのプレッシャーの強さをコントロールすることができます。
1-2-2ゾーンプレスを成功させるためには、特に前線の3人に高い運動能力と状況判断力が求められます。ゾーンプレスは10回仕掛けて1~2回成功すればいい方でしょう。特にレベルの高い試合になれば1試合を通して1回成功すれば上出来ということもあります。そこで、前線の3人は思い切って仕掛けるタイミングと、冷静に引く場合を見極める状況判断力が必要になります。
また、1-2-2ゾーンプレスは様々なハーフコートディフェンスに展開することができます。例えば、3-2ゾーンディフェンス、1-2-2ゾーンディフェンス、2-3ゾーンディフェンスなど、敵味方の相性に応じてハーフコートディフェンスを使い分けられるのもいい点です。
まずは米ビラノバ大学(Villanova)で実際に使われている1-2-2ゾーンプレスでイメージを掴みましょう。
1-2-2ゾーンプレスの目標
1-2-2ゾーンプレスには主に2つの種類があります。前線からプレッシャーをかけるタイプと、オフェンスに時間を使わせてコフィンコーナーでダブルチームを仕掛けるタイプです。
1つ目のタイプでは、前線からプレッシャーをかけてボールを奪うか(第1トラップ)、コフィンコーナーでトラップを仕掛ける(第2トラップ)ことが目標になります。
2つ目のタイプでは、オフェンスに時間を使わせて、ハーフコートオフェンスの時間を少なくさせることと、コフィンコーナーでトラップを仕掛ける(第2トラップ)ことが目標になります。
どちらかのタイプだけを使うのではなく、試合の状況に応じて、1つ目2つ目両方のタイプのディフェンスを使い分けることが効果的です。
1-2-2ゾーンプレスのメリット
- オフェンスが慣れていない
- 試合の流れをスローダウンさせる
- プレスを突破されてそのまま失点につながることが少ない
- 選択できるハーフコートディフェンスが豊富
冒頭で1-2-2ゾーンプレスは日本ではあまり使われていないと説明しましたが、逆にオフェンス側も不慣れというメリットがあります。日本でよく使われる1-2-1-1ゾーンプレスや2-2-1ゾーンプレスは、オフェンス側がしっかりと対応策を練っているため、プレスに引っかかることがあまりありません。一方で、1-2-2ゾーンプレスはオフェンスの対応が遅れてスティールを取れることが多いです。
アップテンポの試合を嫌うチームにとって1-2-2ゾーンプレスは最適です。フリースロー付近(3/4)から徐々に仕掛けるディフェンスのため、オフェンスのスピードを抑え、アップテンポの試合展開を防ぐことができます。逆に、アップテンポの試合をしたい場合は、1-2-1-1ゾーンプレスを検討してみるといいでしょう。
最後尾に2人ディフェンダーがいるため、「ゾーンプレスを突破される=簡単なレイアップを決められる」などにはなりません。
1-2-2ゾーンプレスから展開できるハーフコートディフェンスは数多くあります。相手チームとの相性、コートに出ている味方選手の組み合わせに応じて様々なハーフコートディフェンスが展開できるのは大きなメリットです。
1-2-2ゾーンプレスのデメリット
- 習得に時間がかかる
- 参考文献や動画が少ない
多くのゾーンディフェンスに言えることですが、一朝一夕で身につくものではありません。限られた練習時間の中で、ゾーンプレスに割く時間を他の練習(シューティングや1on1など)に割いた方が効率がいいかもしれないというのはデメリットになります。
1-2-2ゾーンプレスが日本でほとんど採用されていないディフェンスシステムのため、参考になる文献や動画が少ないです。このページで詳細を説明していますが、実際に取り組むとなった場合、様々なケーススタディが必要になることは間違いありません。情報が少ない中で1-2-2に取り組むためには、自分たちのチームで試行錯誤するという覚悟が必要でしょう。
1-2-2ゾーンプレスを成功させる3つのポイント
- ボールをサイドラインに誘導する
- サイドラインとセンターラインを味方につける
- 最終ラインは不用意に飛び出さない
トップのディフェンスは、ボールがミドル(中央)にないように仕向けることが大切です。ボールがミドルにある場合は、プレッシャーをかけてサイドライン側に追い込むか、パスを出させましょう。
1-2-2ゾーンプレスを成功させる最大のポイントは、サイドラインとセンターラインを上手に使うことです。ゾーンプレスをやる以上当たり前のことかもしれませんが、トラップを仕掛ける場所やタイミングを合わせるためにラインを意識することは大切です。
1-2-2ゾーンプレスはダブルチームからスティールを狙うことも大切ですが、オフェンスに時間をかけさせるという目的もあります。その中で最もやってはいけないのが、オフェンスにノーマークでレイアップをさせることです。それを防ぐためにも、最終ラインのディフェンスはギャンブル(取れるか取れないか際どいスティール)に飛び出さないという心構えを持つことが大切です。ロングパスのスティールを狙うというよりも、ロングパスを出させないようなポジショニングをすることが重要になります。
1-2-2ゾーンプレスの手順
・第1トラップ(インバウンドパス)
ボールがミドルにないように、サイドライン側にボールを誘導します。
下図で示すように、ボールがサイドにいった場合、青1はボールマンに対して横からプレッシャーをかけ、ミドルへドライブさせないようにします。その際、赤2がボールをキャッチするのと同時にプレッシャーをかけに行ってもいいですし、赤2がドリブルを始めるまでは距離を取り、ドリブルを始めたらプレッシャーをかけに行ってもいいです。
青2は赤2にボールが渡ったら、サイドライン側をドライブさせないように守りつつ、赤2との距離を縮めてプレッシャーをかけます。その際、青1と青2の間をドライブで抜かれることが多いので、2人のギャップには気を配りながらプレッシャーをかけましょう。
逆サイドの青3はミドルラインまで寄り、パスカットを狙います。赤1に戻されるパス(ボールラインよりも後ろに戻るパス)はスティールを狙う必要はありません。後ろへのパスまでスティールを狙ってしまうと、ゾーンプレスが崩れる原因になりますので深追いはしません。
また、青4/青5は下図のように、青4はボールサイド側に少しより、青5は自陣のフリースロー付近まで下がります。もちろん、オフェンスの位置に応じて柔軟に立ち位置を変えましょう。
・リターンパス
赤1へパスが戻った場合、青1はボールマンへプレッシャーをかけます。青2/青3/青4/青5は元の位置に戻ります。
戻る際の重要なポイントとして、青3は青2が元の位置に戻るまでミドルライン上にいましょう。青2が戻ってきたのを確認してから、青3は元の位置に戻ります。これは、ミドルラインを厚く守ることで、赤1にドライブ突破は無理だと認識させ、サイドへパスを誘導することが目的です。
逆サイドの赤3へパスが行った場合、インバウンドパスの時とは逆の役割となり、青3はサイドライン側を抜かせないように守り、青1と協力してダブルチームを仕掛けます。青2/青4/青5の動きは図の通りです。この時気を付けるべきポイントは、逆サイドへのリターンパスのため青1の出足が遅れるということです。青3は青1が遅れてくることを前提に、赤3を足止めして時間を稼ぐことが大切です。また、遅れた青1は無理にダブルチームに行くのではなく、スペースを取ってオフェンスに時間を使わせ、第2トラップに備えるということも大切です。
・第2トラップ
下図のコフィンコーナーのところでダブルチームを仕掛けます。ボールがセンターラインを越えたら、思い切ってプレッシャーをかけに行きます。ダブルチームを仕掛けるメンバー以外は(図では青3/青4/青5)は第1トラップの時と同様の動きをします。特に青3はボールマンから出る苦し紛れのパスのスティールを狙いましょう。
コフィンコーナーは「墓場」という言葉が示す通り、オフェンスにとっては最も行っては行けない場所であり、ディフェンスにとってはオフェンスを誘導すべき場所です。オフェンスも簡単にコフィンコーナーに行ってはくれませんが、必ずチャンスはあります。繰り返しになりますが、ゾーンプレスは10回仕掛けて1,2回スティールできれば大成功です。オフェンスがミスで(またはディフェンスの誘導が成功して)コフィンコーナーに行ってくれた時を見逃さずに仕掛ける嗅覚を磨くことが大切です。
2つのタイプがあると説明しましたが、1つ目のタイプはインバウンドパスから積極的にトラップを仕掛けに行くもので、基本的に第2トラップを狙わずに、第1トラップが突破された場合はハーフコートまで戻ります。一方で、2つ目のタイプは、インバウンドパスにはプレッシャーをかけずに、かなり引いた状態で守り始め、第2トラップのみ狙いに行きます。
・フラッシュへの対応
1-2-2ゾーンプレスは真ん中に穴があいているため、フラッシュが弱点となります。ボールがミドルラインにある時は真ん中に穴があいてしまうのですが、サイドにボールがある時は逆サイドのディフェンスがミドルラインにいるため、基本的にフラッシュはされません。ボールがミドルにある時はプレッシャーをかけてサイドへボールを誘導すると説明した通り、ボールマンからフラッシュへのパスを簡単に出させないというのが対応になります。
とはいえ、ボールマンのディフェンスがフラッシュへのパスを出させないように毎回守るのは難しいです。フラッシュに入ってしまった場合はあきらめて戻りましょう。また、毎回フラッシュにつなごうとするオフェンスであれば、パスの行先がわかるため、ボールマンのディフェンスがスティールできる可能性が非常に高くなります。
また、青4/青5が状況に応じてフラッシュをケアしてもいいでしょう。その際は、自分が守るサイドにオフェンスがいないことを確認しておくことが大切になります。
ハーフコートのディフェンスへの繋ぎ
1-2-2ゾーンプレスからマンツーマンディフェンスに移行することはかなり難しく現実的ではありません。移行しやすい形としては、そのまま1-2-2ゾーンディフェンスや3-2ゾーンディフェンスがあります。または、トップのプレイヤーが長身であれば、2-3ゾーンディフェンスや2-1-2ゾーンディフェンスもいいでしょう。
まとめ
1-2-2ゾーンプレスは日本であまり使われていないため、型にはまれば強力なディフェンスとなります。
ただし、全てのゾーンプレスやゾーンディフェンスに対して常に伝えていることですが、1試合を通して使えるディフェンスシステムというのは存在しません。私はゾーンプレスなどは試合の流れをつかみ要所要所で使うのが理想だと思っています。試合の中でディフェンスシステムを柔軟に変えるチェンジングディフェンスという考えがありますので、そちらを参考にしてください。