概要
数年以上バスケを教えているコーチならば、少なくとも1人以上のセルフィッシュ(自己中)な選手を教えたことがあるのではないだろうか?バスケの試合を見に行くと、チームメイトへパスをすることを拒み、自分が目立つことしか考えていないような選手が目につくことは多々ある。
バスケにおいてセルフィッシュな選手は、体躯に恵まれ、得点能力の高い場合が多いように思われる。これは子供たちが遊ぶときと同じで、その遊びにおいて力が強いものが(バスケの場合はバスケが上手いという力が)、その場を支配する力を持つからだろう。これは一般的なことであり、おかしなことではないだろう。しかし、その場を仕切る=セルフィッシュではない。独裁者になるかリーダーになるかという違いがある。
バスケにおいても同様で、毎試合20点も30点も取るような選手が、またはチームの半数近いシュートを打つ選手が必ずしもセルフィッシュであるとは限らない。セルフィッシュプレイヤーにチームワークの重要性を教える方法を考える前に、セルフィッシュの定義について確認しておこう。セルフィッシュでない選手をセルフィッシュと決めつけて指導することほど、その選手を傷つけてしまうことはないだろう。
セルフィッシュプレイヤーの定義とは?
Wikipediaによると、セルフィッシュ(selfishness)とは、
Selfishness is being concerned, sometimes excessively or exclusively, for oneself or one’s own advantage, pleasure, or welfare, regardless of others.
引用元:https://en.wikipedia.org/wiki/Selfishness
日本語に翻訳し、バスケのことに置き換えてみると、セルフッシュとは、
「自分自身の成績や勝負にしか関心がなく、チームメイトの感情や重要性に気づかず、チームを全体として捉えることができない選手」
のことである。
例えば、同じように30点を取る選手であっても、チームメイトのお膳立てに感謝の気持ちが持てるかどうかでセルフィッシュかどうかを判断することができる。また、チームが負けたのに「オレは負けていない」などと言う選手は典型的なセルフィッシュプレイヤーだろう。逆に、チームの負け=自分の負けとして受け入れられる選手はセルフィッシュではないだろう。
セルフィッシュプレイヤーをチーム内に持つことの弊害
チーム全体の士気を下げてしまうことは言うまでもないだろう。もしかしたらセルフィッシュプレイヤーの能力がずば抜けていて、試合に勝てるかもしれない。しかし、勝利と引き換えに、他の選手のバスケに対する「楽しさ」を奪ってしまっているケースが多い。パスが回ってこない、シュートを打てないという状態が長く続けば、バスケを楽しくないと感じても仕方がないことだろう。バスケに対する楽しさを感じることは、その後の成長に非常に重要になるので、若い世代のコーチは何においても楽しさを教える必要がある。
チーム全員が楽しいという環境を整えるためにも、セルフィッシュプレイヤーにチームプレイの重要性を教えることは大切だ。ただし、チームプレイを教える前に、「なぜ」そのように振舞っているのかを理解する必要があるだろう。もちろん、選手1人1人置かれている環境が違うので、必ずしも当てはまるわけではないが、心理学上いくつかに分類することはできる。
選手がセルフィッシュに振る舞う理由とは?
- 承認欲求が満たされていない(満たされたい)
- チームメイトを信用していない
- 勝ち負けに執着する環境
特にミニバス、中学で多いのがこのケースだ。マズローの欲求5段階説における第3の社会的欲求(Love/Belonging)が満たされていない選手に多く見られる。また、シュートを決めた時には大いに褒められるのに対し、パス/リバウンド/ルーズボールを拾った時には同様に褒められないということが、ボールをシェアしなくなる根底にある。
わがままな選手は身体能力/スキルがずば抜けていることが多く、また、勝利に対して他の選手よりも貪欲なことが多い。勝利したいがために自ら得点を取ることを強く求め、チームメイトよりもスキルが高いために自分が攻めるべきだと考えてしまいがちだ。
このような選手に対しては、いくら口で説明しても理解してくれることはなく、より高いレベルでのプレイをさせてあげることが最短の解決方法になるだろう。練習試合を自チームよりもレベルの高い相手と組む、選抜チームの練習に参加させるなどが効果的だろう。
コーチが「」と言うこと、親が「」ということを
若い世代であればあるほど、試合の勝ち負けに頓着せずコーチングすることが大切だろう。もちろん、勝ち負けにこだわらずにコーチングすることは、1人の人間として、難しいことは言うまでもない。
正しいチームワークの教え方
わがままな選手にチームワークを教える方法はいろいろあると思う。中でも私自身が有効だと思っている6つのステップを紹介して、この記事の締めくくりとしたい。
- わがままになる前に防ぐ
- ポジティブとネガティブを2対1の割合で伝える
- 全体で話すのではなく、個人的に話す機会を持つ
- ベンチに置く
- 保護者との面談を大切にする
- 正しいプレイを正しく褒める
最初からわがままな選手がいないわけでもないが、チームの環境によって徐々にわがままな選手ができていくことが多い。昔から養生は治療に先立つと言われるように、チームワークを教える際も、セルフィッシュになってしまう前に教えることが大切だ。
米国のマネジメントで近年注目されているのがCompliment/Criticism Sandwichという概念である。これは批判をする(ネガティブなことを伝える)場合に、最初と最後をポジティブなことで挟むと、聞く側が受け入れやすいということ理論だ。バスケのコーチングにおいては、パスを出せと怒鳴りつけるのではなく、良いプレイを褒め→パスをすることを促し→良いプレイを褒めるといいだろう。決して怒鳴りつけることはしてはいけない。
個人的に話す機会を持つこと、選手にとってコーチが真剣であるということが伝わるだろう。ミニバスで選手が小さい子供であった場合でも、オフィシャルなトークを心がけることが大切だと私は考えている。また、チーム全体の前で伝えることは、その選手が恥ずかしい思いをするだけでなく、コーチに対する信用をなくしてしまう可能性が高いのでやめたほうがいいだろう。
スポーツとは関係がないが、米国のビジネスのマネジメントからコーチングに活かせることは非常に多い。下記は是非読んでもらいたい一冊だ。
マーカス バッキンガムの著書「まず、ルールを破れ―すぐれたマネジャーはここが違う」
ここまでで、セルフィッシュなプレイが治らないようであれば、試合には出さずにベンチに置くというのも1つの方法となる。試合に出場できないことで初めて「なぜ」ということを考えられるようになる選手も多い。
ただし、試合に出場させない/プレイ時間を制限すると決めた以上は、その選手のセルフィッシュが治るまで、決してそのルールを破ってはいけない。試合に勝ちたいからとそのルールを破るようでは、チーム全体のバランスが崩れ、元に戻すことは到底不可能になるだろう。
出場時間を制限してベンチにいる時間が長くなれば、必ず保護者が気付くだろう。自分の子供が試合に出ないのはなぜかと騒ぎ出す保護者もたまにいるので、前もって保護者に意図を伝えておくといいだろう。選手と信頼関係を築くためにも、保護者の理解は必ず必要となってくる。
今回紹介している6つの中で最も大切なのが「正しいプレイを正しく褒める」ということだ。シュートを決めた時だけでなく、アシストした時やリバウンドを取った時、ルーズボールを追いかけた時やチームメイトに声をかけていることを褒めることで、セルフィッシュなプレイというのはかなりなくなる。
また、「結果ではなく過程を褒める」というのもバスケにおいては重要だろう。例えば、AがナイスパスをしてBがゴール下のシュートを外してしまった場合(よくあることだ)、Bを叱るのではなくAを褒めるようにしよう。わがままなプレイをなくすだけでなく、チームのモチベーションアップにも貢献するだろう。
*個人的な見解なので、正解はないということをご理解いただきたい。